Moon Walk Tims

ここにある作品はハーメルン、暁、OTR、カクヨムなどに転載されます

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2030-07-02 (Tue)

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ハーメルン|にじの彼方|暁|ついった|掲示板※一括読みはPC読み限定原作:ファイブスター物語(永野護)転生ローラのファイブスター物語 一括 第1部/3章/25話【完結】放浪ローラのファイブスター物語 一括 第2部/3章/26話【完結】/第3部/1章/3話【連載】評価する【新版】すみれ色の瞳の乙女─天馬の章─ 一括 1章/14話【完結】【旧版】ファイブスター物語─廃棄少女─ ※天馬の章とストーリーは同一です評価...

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ハーメルンにじの彼方ついった掲示板
※一括読みはPC読み限定
原作:ファイブスター物語(永野護)

転生ローラのファイブスター物語 一括 第1部/3章/25話【完結】
放浪ローラのファイブスター物語 一括 第2部/3章/26話【完結】/第3部/1章/3話【連載】
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【新版】すみれ色の瞳の乙女─天馬の章─ 一括 1章/14話【完結】
【旧版】ファイブスター物語─廃棄少女─ ※天馬の章とストーリーは同一です
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ギルガメッシュさん叙事詩【FSS×Fate】 一括 3話【連載】
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原作:魔法先生ネギま!(赤松健)

魔法先生ネギま!─紙使い、綾瀬夕映の事件簿─ 一括 9話【連載】
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原作:銀河英雄伝説(田中芳樹)

拝啓、ラインハルト様 一括 2章/11話【完結】
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原作:オーバーロード(丸山くがね)
不滅の戦士 一括 1話【連載】
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まおーの娘 一括 1章/8話【完結】/2章/3話【連載】
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魔導王女の憂鬱 一括 4話【連載】
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2020-08-09 (Sun)

※すべての創作活動停止

※すべての創作活動停止

諸事情により創作関係は活動をお休みします復帰時期などの予定は決まっていません...

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諸事情により創作関係は活動をお休みします
復帰時期などの予定は決まっていません
2020-08-07 (Fri)

我思う、ユエに我あり「9話」

我思う、ユエに我あり「9話」

前へ  我思うユエに我あり「みんな、ちーすっ!」 朝の二年A組の教室。登場したハルナの挨拶にみんなが振り返る。いつもの三分の二ほどが教室にいた。 本日は保健室で目覚めた。シズナ先生から制服を渡されてハルナはそのまま登校である。「あ、ハルナっちだ~」「復活を遂げてハルナが帰還っ!」「どーも、どーもぉ。お久っさ~」 鳴滝姉妹のハイタッチ洗礼を浴びてハルナは自分の席に着く。すぐに朝倉和美が寄ってきて挨拶...

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前へ  我思うユエに我あり
「みんな、ちーすっ!」

 朝の二年A組の教室。登場したハルナの挨拶にみんなが振り返る。いつもの三分の二ほどが教室にいた。
 本日は保健室で目覚めた。シズナ先生から制服を渡されてハルナはそのまま登校である。

「あ、ハルナっちだ~」
「復活を遂げてハルナが帰還っ!」
「どーも、どーもぉ。お久っさ~」

 鳴滝姉妹のハイタッチ洗礼を浴びてハルナは自分の席に着く。すぐに朝倉和美が寄ってきて挨拶をする。

「ハルナも吸血鬼にやられたとか、もうすでに死んでいる、説が出てたけど、うーん生きてたか。お帰りー」
「フ、寝てる間に和美に勝手に記事ネタにされてたかぁ……」
「しない、しないって。インフルエンザなんかじゃネタにもなんないよ~ 季節外れってくらいかなぁ」
「だよねぇ~」
 
 ハハハ、と和美に笑って返す。インフルエンザということで隔離されていたらしいのだが、ハルナにはその間の記憶がまったくないのである。
 不思議なことに最近の記憶だけすっぽり抜け落ちているのだ。それ以外は普通。今まで通りだった。
 ハルナの前に今入ってきた図書館組の二人が立つ。夕映とのどかだ。

「もう体はいいですか? ハルナ」
「良かった、パル。もういいんだね?」
「お! ユエ吉ただいまぁ~」

 夕映がいやいやする抵抗は無視し、むぎゅーっと夕映をハグする。

「ハルナ、そーいうのはいいですから……」

 シズナ先生から目を覚ましたという連絡を受けたのでいつもより早く登校してきたのだ。
 心配していたような記憶の混乱は今のところ見られませんが、しばらくは様子見ですね。

「うーん、何だかわからないけど、ぎゅーしたい気分なんだ~」

 ようやくハルナが離れてホッとする。ついでのどかもハルナはハグをする。

「パル……」
「いやぁ……満足、満足!」

 二人にハグして、しっくりきたと一人満足してハルナは席に座る。
 ネギが教室に入ってきてハルナを認めて席の前に立つ。

「早乙女ハルナさん! 良かった、復帰できたんですね!」
「あれー、ネギ先生もちょー久しぶりー! 明日菜もげんきー?」

 ハルナがピンピンしてるよ、と手を上げて明日菜とタッチする。

「早乙女さん、インフルエンザ良くなったんだね」
「そーだよ、何でか知らないけど、その間の記憶ないんだけどねぇ……」

 頬杖ついてなぜかしらん? とポーズを付ける。

「まったく、お気楽な女だぜ……」
「はて? 君、誰?」

 ネギと明日菜の後ろにいる少年に目が行く。ハルナが初めて見る顔だ。
 白シャツに黒ズボンはそこらの中学生かなという服装だが、額にはバンダナをしている。何だか尖った角みたいなのを付けていて目つきはすごく悪い。
 見た感じは小学生のように見えるが、中学生なのだろうか? いやそもそもここに男子生徒?
 前提条件がおかしいが、子ども先生がいる時点で常識はマッハに素通りしているA組であった。

「彼はですね、僕の新しい生徒です! 名前は綾瀬キラ君です」

 ハルナのいぶかしむ視線にネギが前に出る。キラの態度は偉そうで腕組みをしている。
 彼はこのクラスに特別編入となった。席は増設されてキラは夕映の隣である。寮と教室では夕映が面倒を見ている。
 力を封じられているが、夕映を喰ってやると宣言するようなキラを野放しにはしておけないと、ネギがキラ君を監視しますと言うので、夕映との距離も微妙に縮まっている。

 おかげでのどかとネギ先生の距離も近くなりました。まあ、のどかは相変わらずの性格なので一緒に話すだけで精いっぱいなのですが、本人はそれだけで幸せモードです。
 のどかにはもっと頑張ってほしいですね。

 なお、隣席の千雨は非常識クラスがSランクアップにしやがったと現実と戦っている。

「綾瀬?」
「恥ずかしながら、私のいとこです……」

 ということになってます。と夕映は頭の中で注釈をつける。

「はい?」

 夕映の応えにハテナマークでハルナが返す。
 学園長との話し合いで鬼の少年、鬼羅(キラ)は夕映のいとこということにされているのだ。

「ハルナが寝てる間なんだけど、キラ君が上京してきて、その間は私たちの部屋にってことになったの」
「ふーん。何、その頭の? 角? 角なの?」

 のどかの説明にハルナの手が早速伸びる。変わったものは確かめずにはいられない質である。

「触んな、バカ女!」
「おおう?」

 その手をキラは邪険に払う。

「バカは余計よ! ごめんねぇ、この子、礼儀がなってなくて!」

 ごっつんとキラの頭に明日菜の拳がのめり込む。

「このアマー!」

 すかさずやり返そうとキラの手が伸びるが、あやかが二人の間に割って入る。

「もう、またですの! 明日菜さん! キラさん! 授業前の騒ぎはペナルティを課しますわよっ!」
「何よ、委員長。ペナルティって!」
「放課後の居残り補習に決まってますわ! テストが近いことお忘れっ!?」
「テストだぁ……?」

 何だそれ? というキラ。夕映の背にはどんよりモードがのしかかる。

「ついにその時が来てしまったというわけですね……」
「そうかぁ、もう期末試験だねえ……」

 自分が寝てる間にもうその時期か……
 ハルナ的には問題ない。何せここはエスカレーター方式。学年最下位になろうがクラスがどうにかなる事もないのだ。

「まあ、最下位でも何とかなるよねぇ。大丈夫、大丈夫」
「ええ? ハルナさん、大丈夫じゃないですよね? それはマズいことでは……」

 楽観的なハルナにネギがおろおろする。他のメンバーも特に実害がないので涼しい顔である。

「そうです! ネギ先生の言う通りですわっ! 今年も最下位になんてなったら、わたくしのクラスが地に落ちてしまいます。明日菜さんのようなおバカさんを野放しにしては置けませんわ!」
「ナニソレっ! 委員長、人を何だと思ってるのよ!」
「おバカさん。ええ、おバカさん以外の何者でもありませんわ」
「キー! おバカか知ってるけど人に言われたくないわっ!」
「だったら、今からお勉強なさってはいかがですか? お・バ・カ・さ・ん」
「相変わらず委員長の煽りスキルが光ってるですね……」

 あやかと明日菜が取っ組み合うのをネギが止める。

「だってー、夕映も勉強しなさいよ」
「そうだよ、夕映……」
「絶対イヤです」

 ハルナとのどかに全力否定。そこは譲れない一線です。

「は、こいつらアホすぎるな……」

 委員長と明日菜の取っ組み合いも決着がつき、今日もいつも通りの授業のチャイムが鳴るのでした。  



「……勉強はさておいて、今日はハルナの快気祝いです」
「夕映、どこ見て説明してるの?」
「のどか、ジュースは行き渡りましたか?」
「みんなの分のコップあるよー。はい、どうぞ」
「ありがとうです」

 のどかが夕映の分とコップにオレンジジュースを注ぐ。
 ここは前にみんなで来たお好み焼き屋です。今日はハルナ復帰の快気祝いにお店を借り切ってみんなできています。
 一人余計なのがいますが仕方ありません。

「なぜ私までここにいるのか……」

 桜咲刹那さんも呼んであります。余計なのは彼女のことではありません。
 桜咲さんは今回の特別ゲストです。龍宮さんも呼んだのですが、用事があるので遠慮しておこう、と辞退されました。
 ハルナ救出の功労者の二人へのお礼も兼ねていたのですが、彼女には別の形で返そうと思います。

「せっちゃん、来てくれてありがとうなぁ」
「お嬢様……」

 刹那と木乃香は夕映たちとは別席で隣同士の席になるように夕映が指定している。
 キラはハルナとのどかの前にふんぞり返っている。

「キラ君て出身どこなの? こっちにはご両親の都合とか? でも寮にいるんだよね」
「……好きでここにいるわけじゃねえ。学園長の爺に言えよ」

 ハルナの問いにキラはぶっちょう面で答えを返す。

「こらです。そんな答え方がありますか」

 ごつん、と夕映の制裁チョップがキラに炸裂する。

「ってえ……あにすんだこのアマっ!」

 ギランと目つきの悪い双眸が夕映に向けられる。
 バンダナ下の三つ目は閉じられているが魔物が持つ「魔眼」の力は封じられている。
 魔封じの鎖と魔物を封じた式札が封印の要だ。式神としての存在を維持するのに夕映の持つ力を必要としている。

「言葉使いには気を付けるですよ?」
「ち……」
「なかなか個性的だねぇ。夕映がしつけ役ってわけね」
「ホントにしつけがなってなくてすいません」

 実際、常識という言葉の意味を一から教えるなんて面倒この上ありません。
 魔本に封じられていた時間が長かったのもありますが……

「その角、触らせてよ~」
「だから、触んなよ……」
「今回の主役はハルナです。好きなものを頼んでくださいね」
「いやぁ、どうもどうも。でも、一週間寝込んでてまったく記憶ないなんて最近のインフルエンザはヤバいよねえ、アハハ」
「そうだね、ハルナへの面会は全然ダメだったから、すごい久しぶりかな?」

 ハルナの記憶がない期間、本喰らいに喰いつくされた記憶を復元するために夕映がずっと治療していたのだ。
 紙の秘術を用いてすべての記憶を元に戻すことができたが、失踪前と本喰らいに乗っ取られていた間の記憶はあえて再現しなかった。
 それがハルナのためだった。
 のどかの記憶も念のためにしおりを差し込んで事件当時の記憶には封をしてある。
 
「喰われたのに呑気なねーちゃんだぜ……」
「そのことは他言無用です。いいですか?」

 小声でキラに囁く。

「人間ごっこなんていつまでもやってられっか。お前を喰ってやるんだからな」

 まったくと言っていいほど馴染んでいませんが、コレを放し飼いにするわけにもいきません。
 のどかにはいきなり過ぎましたが、綾瀬家のいとこをしばらく預かることになったのだが、すまんがそちらで一時期預かってくれんかのう、と学園長から直接の説明がありました。
 穴だらけで突っ込みどころは満載ですが、彼は祖父の泰造が本に封じた魔物です。その魔物を私が受け継いだのです。
 これまで数多の本喰らいを食らってきた恐ろしい魔物……なのだけれど、今は学園長に力を封じられてただの子どもでしかありません。
 まあ、実害はないのですが……

「夕映ちゃん、夕映ちゃん?」
「はい?」

 ちょんちょんと木乃香が夕映の肩を突く。ジュースを取りに来たのか瓶を持っている。

「せっちゃん誘ってくれてありがとうなぁ~」
「いえ、私も桜咲さんにお世話になったので」
「そうなん?」
「ええ、だからお礼しようと誘ったんですよ」

 実際、彼女がいなければハルナを救えていなかったかもしれません。スムーズに本喰らいを誘い込めたのは二人がいたおかげですから。
 運ばれてきたお好み焼きの入れ物をキラが覗き込む。

「何だこれ?」
「キラ、かき混ぜてこうやって焼くです」
 
 キラに見本を見せて夕映が鉄板に具を注ぐ。

「んだこれ、うめえな……」
「ふつーは切って食べるですよ。熱くないんですか……」

 一枚丸ごと頬張ってキラが顔芸を披露したり、みんなで違う種類のを切り分けて食べたり、今日一日の最後が過ぎていく。
 刹那さんと木乃香の距離感も少し縮まったみたいです。
 
「やっぱこのお店いいわ~ 常連決定~」
「ハルナ、復帰初日お疲れ様です」
「いいよね、こういうの。賑やかなのも増えたし」

 向こう側で今度はキラが刹那に絡んでいる。
 斬るか……と殺気を飛ばす刹那の前で焼き方を覚えたキラがひっくり返して、木乃香がパチパチと拍手を送る。

「そうですね。ハルナ」
「うん、何?」
「……お帰りなさい」
「ただいま、夕映」 
  
 ハルナ快復の打ち上げ会はこうして賑やかなうちに幕を閉じるのでした。
前へ  我思うユエに我あり
2020-07-31 (Fri)

我思う、ユエに我あり「8話」

我思う、ユエに我あり「8話」

前へ 次へ 我思うユエに我あり 夕映と真名に刹那は図書館島の入り口にいる。時刻は満月の夜間近だ。「桜咲さんと龍宮さんのお二人には頼みたいことがあります」「作戦か、綾瀬? 名前は真名と呼んでくれて構わないぞ」「ええと、作戦というほどのものではありません。先日、図書館島の各ポイントに紙を配置しました。これを見てください」 夕映の頭につけたヘッドライトは図書館探検部の備品だ。普段から使うようなものではな...

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前へ 次へ 我思うユエに我あり
 夕映と真名に刹那は図書館島の入り口にいる。時刻は満月の夜間近だ。

「桜咲さんと龍宮さんのお二人には頼みたいことがあります」
「作戦か、綾瀬? 名前は真名と呼んでくれて構わないぞ」
「ええと、作戦というほどのものではありません。先日、図書館島の各ポイントに紙を配置しました。これを見てください」

 夕映の頭につけたヘッドライトは図書館探検部の備品だ。普段から使うようなものではないが、のどかとハルナの物を真名と刹那に貸与している。
 図書館島の地図を二人に見せる。透かしに番号を振ってあって重ねれば四角のマスで区切られ図書館島の各ブロックがわかるようになっている。
 地図には赤や青と緑のペンで印がしてあった。

「これは罠か?」

 真名が色違いの印が何であるか尋ねる。

「正確には探知機のようなものです。あと警報も仕掛けてあります。敵は図書館島を指定しましたが場所を特定しませんでした。地形的にここは敵の本拠地のようなものですが、こちらに備えがあることまではわからないはずです」
「つまり、私たちということだな」
「はい」

 刹那に頷いてみせる。

「お二人に任せたい役割は陽動と追い込みです。一人が待ち構えて誘導しながら、一人が敵を連れてくる感じです」
「では私が陽動を引き受けよう。刹那は追い込み役を頼む。いつもの手順で行くぞ」
「わかった。任せるがいい」

 二人は組んでそこそこ長いですから、私と組むよりはコンビネーションを発揮してくれるはずです。

「私はここに待機して位置を報せます。桜咲さんはここまで追い込んでもらえれば後は私が対処します。私が敷いた結界に閉じ込めることができれば勝てます」
「理解した。私に異存はない」

 真名が頷く。刹那は真剣な眼差しを夕映に向ける。

「綾瀬、一つだけ聞きたいことがある」
「はい。どうぞです。桜咲さん」
「体を乗っ取られた早乙女を元に戻すことが本当に可能か? 私はまだお前の力をよくは知らない。早乙女の命を預けるに相応しいか判断がついていない。本当に本喰らいに対処できるのか?」
「刹那、綾瀬が専門家だと言ったのは君だぞ?」
「悪いが本音だ。人命がかかっている。一般生徒を巻き込んでいるのだ。慎重にもなる」

 真名にコレは引かないと刹那が態度で示す。

「私の力量に不安を持っているのですね……信じてほしいとは言えません。ですが、ハルナは私の友人です。必ず連れて帰るつもりです」

 夕映の言葉を真名と刹那が受け止める。

「わかった……作戦を詰めよう」



 くっきりとした満月が夜空に浮かんでいる。今、同じ空の下で二つの戦いが始まろうとしている──
 一つは吸血鬼エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと魔法先生ネギ・スプリングフィールドの戦いだ。
 そしてここ図書館島でもう一つの戦いが始まる。

「何だ?」
「停電か……」
「これが合図ということですか……」
 
 麻帆良の明かりが次々に消えていく。何が起きているかを知らぬ人々にとってはただの停電に過ぎない。
 夕映は胸のペンダントが反応するのを感じ取る。ハルナが……本喰らいが近くにいる。

「行きましょう」

 図書館島の明かりはすべて落ちている。ヘッドライトをつけて三人が決戦の場に踏み入っていた。

「時は来た……綾瀬泰造の孫娘。その命、この私が喰らい尽くしてやろう」

 図書館島の頂上でハルナの体を乗っ取った本喰らいが笑う。すでに侵食はかなり進み力を得ている。その姿が揺らいで図書館の中に転移していた。
 夕映は閉じていた目を開く。こちらのレーダーに引っかかったのだ。

「真名、反応を感知。アの五からイの四です」
『了解。刹那、行くぞ』

 夕映は敵の次の動きを予測する。呼び名に関しては作戦遂行のため短縮して呼ぶことを了承させられた。
 それぞれのエリアに張り巡らせた紙が夕映の目であり耳である。込めた念を反響させながら周囲の紙を震わせて余波を周囲に撒きながら敵が移動する位置を割り出していた。
 今や夕映は念波を受け取る司令塔である。コウモリのように念を音波のように感じ取ることに全神経を集中させている。
 人間も生体波動を発している。刹那や真名を間違えることはない。本喰らいが放つ波動は独特の周波を持つ。
 夜であるからには予め目などは役に立たないとはわかっていた。停電はあらかじめ想定に入れていたわけではない。
 夕映は二人に指示を出す。

「刹那、うの六を南に追い込んで」
『対処する。来た。引き付けるぞ』

 相手の動きを探るための探知に紙を多く割いている。二人の位置も見失ってはいない。
 敵を引っ掻き回し、こちらの仕掛けた結界に引き込むのが狙いだ。今や夕映が地の利を得ているが油断はできない。

「真名、そこから左へ誘導してください。かの六の袋小路に追い込めます」
『ここまで暗闇の中でスムーズに指示されてると何かうすら寒いものを感じるよ。行ったぞ』
「絡めとります」

 夕映は魔本のペンダントを魔封じの鎖から外す。

「解放っ!」

 鎖から解き放たれた本が光を帯びると本来の本の形を取り戻して夕映の手の中に収まった。

「綾瀬~!!」

 髪を振り乱した本喰らいが飛び込んでくる。その姿は強力なトリモチ弾によって動きを阻害されているが驚異的な身体能力で天井を駆けた。
 あえて夕映は無防備な姿を敵の前に晒した。紙の防御陣すら敷いていない。 
 体を回転させて本棚を蹴った本喰らいが突進してくる。

「綾瀬っ! 避けろ!!」

 刹那の声が響くが夕映は動かない。本食らいが夕映の目前に迫る瞬間──
 本のページが開き、世界は時間を止めた。周囲は本に囲まれた世界から彩りのある色彩に彩られていく。

「接続──」

 夕映が言葉を発して本喰らいを光が包んだ。結界とは区画ではなくこの本そのものを指している。
 魔本は使い手の内面世界そのものだ。持ち主の魂の物語を具現化したもの──。
 紙使いの切り札であり、自らの内面世界に魔物を引きずり込み本喰らいを封じる奥の手であった。 

【本の無限領域の世界(Book Of Unlimited World)】

 解放された本の力で夕映の姿も変化を遂げる。
 解かれて乱れた髪がハーフアップに結われ、大きな赤いリボンが止められる。制服も消え去り赤い女袴の着物姿に変わった。足には黒革の紐ブーツだ。
 どこから見ても大正時代のハイカラ女学生の姿へと変貌を遂げていた。
 周囲の景色も大正さながらの建物と乗り物が存在し人々が行き交っている。だが、それは現実の人ではない。
 綾瀬夕映の物語が創り出した幻想の住民たちであった。
 その手に本はない。この世界が魔本そのものなのだ。

「アハハっ! 喰らいがいがあるよ! お前のすべてを私がもらうっ! ここにはお前の仲間は入れまい」
「ええ、己が身を食わせてあなたを討ちます。ハルナを返しなさい!」 
「できるものかぁ。すでに九割がたは私のものさ。このようになっ!」

 空間から黒い槍が飛び出して夕映を襲った。

「無駄です」

 身をひるがえした夕映の後を黒い槍が追う。だが、普段の夕映にはあり得ない速さでその攻撃を避ける。
 閉じられた空間からの予測不能な空間攻撃を息も切らさずに捌き切っていた。衣にも傷一つついていない。

「ここは私の世界です。あなたの攻撃は効きません。いかに宿主の物語を喰らおうともここでは勝てませんよ?」
「余裕こいてる暇はないぞ、綾瀬夕映……もうじきだ。もうじきこの娘は白紙になる。私がすべてを喰らい尽くすのだからな」
 
 背中を向けて本喰らいが走り出す。狂った声を響かせながら道行く者を薙ぎ払う。血をまき散らすがそれは生者のモノではない。

「待つですっ!」

 今度は夕映が追う番となった。
 橋を駆け抜け。
 路面電車を追い抜いた。
 その先には塔がある。
 重力などないように本喰らいが塔の鉄筋を走って頂上の展望室に達した。
 
「終わりさ……早乙女ハルナは真っ白の本となって朽ちる……あはははっ!」

 赤い目が追ってきた夕映を捉える。その夕映を指差した手から腕までがめくれて白紙のページをなびかせる。ハルナの全身が白紙に変わりつつあるのだ。
 本喰らいによって物語を食いつくされた人間は本に還る。それが本喰らいに憑りつかれた人間の末路であった。

「哀れな本の魔物……人間の物語を喰らい、どこまでも満足せずに物語を喰らい続ける。それは私も同じです。私の中の魔物がお前を喰らえと囁き続けます。いつまでこんなことが続くのでしょう」
「お前が私を喰らうか、私がお前を喰らうか。こい綾瀬夕映っ! 魂をかけて私と戦えっ!!」
「勘違いしないでほしいです。お前はここに入ったときからもう喰われています。私の中の魔物にっ!」
「っ!?」

 本喰らいの背後の影が伸びた。その影は人の形をしているが全身に目があった。いく百もの目が見開いて獲物を見下ろす。
 夕映にも制御できぬ本の中の魔物である。唯一魔封じの鎖で封じていたモノ。自らを本の魔物の脅威にさらすことで本喰らいとの共食いを誘発させた。

「くははははっ! いいぞ喰らうがいい! だが、早乙女ハルナももろともだっ!」
「させないです」
「むっ!?」

 前に出た夕映の姿がかき消えて本喰らいを抱擁するように拘束する。

「私を喰らうのでしょう? だったら、私に喰われる前に私を喰らい尽くすです。お前の望み通りに」
「何をするつもりだ?」

 本喰らい──ハルナの唇に夕映の唇が重ねられた。すると、本喰らいの背後の影が消えて夕映の中に入っていく。
 ハルナを抱えたまま夕映は膝をつく。そして二人はその場に倒れていた。

◆ 

「おい、綾瀬っ! 綾瀬、起きろ」
「やはり目を覚まさないか……」

 月が浮かぶ空。麻帆良市内は停電から復旧し、街は明かりを取り戻していた。
 真名と刹那の前に意識のない夕映とハルナが横たわっている。先ほどの戦闘で見せた異常さはもうハルナには見られない。
 二人は夕映たちを図書館島の外に運び出して路面に寝かせていた。

「学園長はじきにくる」
「ああ……」

 真名がハルナの呼吸を確認する。起きる気配はまったくない。ハルナの顔は白く、存在そのものが恐ろしく希薄になっていた。
 異常は夕映の身に起きていた。体のあちこちが「めくれ」本のページのように開いては閉じてを繰り返し、また別の体の部位で同じ現象が起こる。
 その捲れたページには文章が書かれているが、時系列はすべてバラバラであった。

「いったいこれは何なのだ?」
「まったく見当がつかないが、綾瀬が本喰らいと戦っているようにも見える」

 真名の指摘通り、夕映の体の中で二つの魔物が戦いを繰り広げている。互いを喰らい合いながら、体の所有権を巡って争っているのだ。
 
「どうやら遅かったようだな……」 
「エヴァンジェリン」

 刹那が立ち上がって来訪者を出迎える。
 結界に再び囚われた吸血鬼エヴァンジェリンが二人の前に立つ。その後ろには茶々丸とネギ、明日菜らがいる。
 すでに彼らの勝負は決着がついていた。 

「みんな、どうしてここに? 綾瀬さんと早乙女さん、どうしちゃったの!?」
「近寄るな、神楽坂明日菜。今は綾瀬に触れてはならない」 
「どういうことですか? エヴァンジェリンさん?」
「坊や。今、この娘の中で魔物同士が争っている。どっちが勝ったとしてもろくなことにはならないだろうな。もし目を覚ましたとしても綾瀬がお前たちの知る綾瀬であるかはわからないぞ」
「ええ……?」
「どういうことだ。エヴァンジェリン。説明してくれないか?」

 真名が問う。

「……本の魔物を綾瀬は解き放ってしまったようだ。早乙女を救うために自分の体に本喰らいを取り憑かせたのだろう。綾瀬の中で二つの魔物が肉体の所有権で喧嘩中さ。綾瀬の心が強ければ本喰らいに心を喰われず、なおかつ本の魔物の制御に成功すれば戻って来れるが……確率は五分五分といったところだろう。禁断の闇の呪法とはよく言ったものだ」

 エヴァンジェリンの言葉に自嘲気味の響きが混じる。
  
「どうにかできないのですか? エヴァンジェリンさん……」
「この娘の精神力次第だ。我々ができることはない。坊や、人の心に入り込むのは人間の闇に直面することになる。もしこの娘の心の中に入り込んで連れ戻すにせよ、その闇に呑み込まれないだけの力が必要だ。お前にそれを乗り越えるだけの力はまだない。本の魔物は蟲毒の蛇だ。私の力が戻っていればな……」
「そんな……」
「おお、ネギ先生ではないか。それにエヴァンジェリンもおるのう」

 老人の声が響く。学園長の登場に全員が注目していた。

「何だ、爺か……」
「どうやらネギ先生との力比べはイーブンだったようじゃの」
「違う。私が勝っていた! それと、ただの力比べをしていたわけじゃないぞ。停電復旧がもう少し遅ければ確実にこの坊やの血を吸っていたぞ!」

 エヴァンジェリンがネギを指差して抗議する。
 
「綾瀬っ!?」

 異変に気付いた刹那が刀に手をかける。妖気に包まれた夕映の体が浮かび上がり重力を無視して宙に浮いている。

「ち、始まったか……」
「皆、下がっていなさい。エヴァンジェリンもネギ先生も手出しは無用」
「でも学園長……」
「坊や、止めておけ。今ここで処理ができるのは爺だけだ」

 エヴァンジェリンがネギを止めて二人は下がる。

「さて、綾瀬夕映ではあるまい? はたしてどちらかのう? 本喰らいか、それとも……」
『綾瀬夕映……私を封じた、忌々しい男の孫娘か……』

 その口から洩れるのは怨念の響きを持つ幽鬼の声のようだ。

『肉体を得るは数十年ぶりよ……』

 溢れ出る力がここにいる全員を圧倒する。本喰らいを食らってか精気に満ち満ちている。
 
「何という妖気だ……本食らいの比ではないぞ」
「真名、学園長でも無理なら、私が綾瀬を斬る」
「ふぉふぉふぉ、久しぶり過ぎていささか図に乗っておるようじゃ。それっ!」

 学園長から放たれたものが飛んで夕映を乗っ取った魔物が打ち払う。だが、その瞬間、雷撃が魔物を打ち据える。
 持続した雷撃がその身を縛り魔物が苦悶の声を上げる。

「退魔呪雷縛陣っ!?」

 刹那が退魔秘術の技を漏らした。最高位の陰陽術の一つとして知られている技だ。

「苦しかろう。その体から出たらどうかのう?」
『ふざけるな! ぐぉぉぉっ!』

 呪縛された夕映の体から黒い妖気が漏れ出して地面に落ちて形を取り始める。実体はないが妖力密度の濃さから相当の質量を伴っていた。
 学園長が懐から取り出した鎖を放る。すると鎖は一本に解かれて外に出た魔物を縛り上げていく。元の長さを超えて何らかの術が働いていた。
 浮遊していた夕映の体が落ちるのをネギが滑り込んで受け止める。

「綾瀬さん、大丈夫ですかっ!?」
「……ん。ここは? ネギ先生? なにがあったです?」

 薄っすらと目を開けた夕映にネギが良かったと呟く。状況を把握しきれず、夕映はぼんやりと学園長を見る。
 その先に鎖に縛られた魔物の姿があった。

『鎖如きが! ぐぉぁぁ~~っ!!』
「ふぉふぉ、先ほどの雷術よりも動けまい。何せ、その鎖は本を封じていた魔封じの鎖よ。泰造の忘れ形見。再びその鎖で縛られるがよい」
『おのれ~ 爺っ! 貴様を殺すぞっ!!』

 蠢く実体のない闇が腕を伸ばす。その縛る鎖が動きを封じて身悶えしている。

「このまま消滅させるのも手だが、命乞いをするかの?」
『誰がするかぁぁっ! このクソ爺っ!』
「クソ爺という点は私もおおいに同感だな」

 腕組みのエヴァンジェリンがうんうんと頷く。何せ身に覚えがありすぎるくらいだ。

「では最後の仕上げといこうかのぉ……」

 学園長の手にあるのは式符だ。陰陽道における人型の式神を呼び出すためのものだ。学園長から符が放たれ鎖で縛られた魔物に命中する。
 すると、実体を持たぬ魔物の姿がみるみるうちに人型に変わっていく。同時に魔封じの鎖が出現した者の全身に巻き付いていた。
 黒い闇が払われて白い蒸気を上げて周囲を覆い尽くしていく。
 すぐに蒸気が晴れて、見守っていた者たちの前に素っ裸の少年が現れる。
 その身を縛る鎖が模様のように体に刻まれていた。頭には角が、額には三つ目の目がある。目元は邪悪な光に満ちている。

「あー、くそっ! 何だ、これはっ! ガキになっちまった!」

 鬼の少年が荒々しい粗暴さで自分の体をかきむしる。見た目的には一〇才ほどの少年となっていた。

「うそ……男の子に……」
「なっちゃった……」

 明日菜の呟きにネギが続く。

「学園長これは……式神、なのですか?」
「うむ、刹那君。近いが少し違うのう。魔封じの鎖が魔物本来の力をほとんど封じておる。それ以外はただの子どもじゃよ」

 刹那の問いに学園長が答えて笑う。

「どうじゃ、力を出せまい?」
「爺、なにしやがったぁぁ~~っ!」
「お主には選択肢が二つある。このまま人の姿でその身の妖力が尽きるまでその姿で過ごすか…‥」
「このパターンは私も経験済みだ。ナギといい学園長といい意地が悪いな……」

 額に手を当ててエヴァンジェリンがクスクス笑う。登校地獄一五年に比べればまだ生ぬるいレベルではある。

「もう一つは、消滅を望まぬのであれば綾瀬夕映の従者になることじゃ」
「はい?」
「なんだとっ!!」

 夕映と鬼の少年の声が同時に上がる。少年が学園長に殴りかかるがあっさりとかわされる。

「俺が小娘の子守だとふざけるなよ!」
「その鎖に縛られている限り、お主は力を失ったじゃじゃ馬に過ぎん。ここにいる綾瀬夕映が依り代に力を注がねばお主は消滅して消え去るだろうな。どうじゃ、選択の余地は与えたが……」
「それは選択とは呼ばないです……」

 意地悪な学園長にぼそっと夕映が漏らす。
 依り代が紙ということは、紙使いとしての力を注いで燃料補給するということだろうか? 原理は陰陽術の式神とほぼ一緒だろうと推測する。

「くっそー。ずっと俺を縛るやつの魂を喰らうのが悲願だったというのに。何だこの屈辱は!」

 夕映にずかずかと歩み寄って鬼の少年が睨みつける。悔しさからか、その目の端に涙が浮かんでいる。
 何だか子どもっぽいです。

「お前! 今、笑っただろっ!?」
「いえ、笑ってないです。ぜんぜん」
「いや、笑ったろ!」

 目の前のやり取りに緊張感はまるでない。

「どうやら一件落着のようだ。私たちの仕事はこれで終わりだな、刹那」
「終わってはいないだろ。早乙女がまだだ」
「ハルナっ!」

 夕映が寝かされているハルナの所に走り寄る。

「へ、ずいぶん喰われちまってるな。こりゃ、手遅れじゃないか?」

 鬼の少年が後ろから声をかける。その声には反応せずに夕映はハルナの記憶を探った。
 あった……まだわずかに記憶の痕跡を残している。再生は可能だ。

「記憶を修復します」
「そんなことできるの? 綾瀬さん?」

 いまだに状況がさっぱり把握できていない明日菜が尋ねる。

「一つずつやります。必ず、元に……」

 フラっと夕映は意識を持っていかれそうになる。その肩をネギが支えた。

「無理だぜ、精神力を使い果たしてやがる。そこのねーちゃんを助けるのに自分の体に俺たちを誘い込んだからな。あと一歩で全部俺が全部喰ってやったのによぉ」
 
 ケッと吐き出すように鬼の少年が言葉を吐き出す。

「ちょっとあんたねえ。綾瀬さんは命がけで早乙女さんを助けたんだよ!」
「俺は誰がくたばろうが知ったことじゃねえ!」

 鬼の少年が明日菜に食ってかかる。カッカした明日菜とにらみ合いになり、ネギが引き離した。

「綾瀬君も早乙女君も学園の保健室に運びなさい。早乙女君の治療は綾瀬君が回復してからじゃ。早乙女君は……インフルエンザで入院中ということにしておく」
「爺、俺はこの女のお守なんてしねえぞ!」
「ふむ、正確にはお守をされる方じゃな。命の選択権は綾瀬君次第じゃからな」

 顎髭をしごいて学園長はひょうひょうと返す。

「くそぉ……おい、女」

 鬼の少年が夕映の前に立つと背中を見せて座る。

「何です……?」
「背中に乗せてやる。さっさとしやがれ。クソ女」

 どう考えても親切と感謝する言葉使いではありませんね……

「自分で立てます」

 夕映は明日菜の手を借りて自分で立つ。ハルナは真名が背負っている。
 ああ、でもやっぱり厳しいです……
 倒れかけた夕映の体を茶々丸が受け止める。

「綾瀬さん、ここは私が」

 有無を言わさずという感じで茶々丸が夕映を両手に担ぎ上げる。いわゆるお姫様だっこである。

「あー、ありがとうございます……」
「いえ……こちらこそ」

 夕映は茶々丸を見上げる形で礼を言う。
 何だか……恥ずかしいけれど、ちょっとドキドキしますね……

「け…… いでぇっ!?」

 鬼の少年の頭を学園長がはたく。

「こやつも少し礼儀作法を教えた方が良かろうて。ネギ先生や」
「はい、何でしょうか、学園長?」
「これも、魔法使いの試練じゃ。手のかかる生徒が一人増えるが構わないかの?」
「えー! もしかして彼がボクの生徒ですか?」
「何だてめえも魔法使いの仲間かよ……」

 戸惑うネギに挑発的に鬼の少年が返す。

「いでっ! 爺、叩きまくるんじゃねえっ!」
「これからはお主もネギ先生の生徒じゃ。人間世界のことを深く知ると良かろうて」
「クソー、最悪だ……」

 ズキズキ痛む頭を押さえて鬼の少年はふてくされるのだった。
 こうして、桜通りから始まり、満月の夜にかけて起きた事件は終わりを迎えました。
 本喰らいに記憶を奪われたハルナが目を覚ますのは一週間後のことです。みんなには季節外れのインフルエンザということになっています。
 そしてA組に一人の生徒が加わることになりました。女子校ですが特例ということで学園長が了承したのです。
 そして私たちの部屋に角の生えた居候が一人増えることとなったのです── 
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2020-07-18 (Sat)

我思う、ユエに我あり「7話」

我思う、ユエに我あり「7話」

前へ 次へ 我思うユエに我あり 桜通りの吸血鬼── 犯人はクラスメイトのエヴァンジェリンさんと判明し、そのパートナーは茶々丸さんでした。 彼女たちはハルナに本喰らいを憑依させ私に仲間になれと言ってきました。目的はネギ先生だとも。 学園長には危機を報せたけれど、これは私の問題です。本喰らいを封じるのは私の役割。それは紙使いの宿命と言えるものです。 誰かに強制されたわけでも、誰かに約束したわけでもありま...

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前へ 次へ 我思うユエに我あり
 桜通りの吸血鬼──
 犯人はクラスメイトのエヴァンジェリンさんと判明し、そのパートナーは茶々丸さんでした。
 彼女たちはハルナに本喰らいを憑依させ私に仲間になれと言ってきました。目的はネギ先生だとも。
 学園長には危機を報せたけれど、これは私の問題です。本喰らいを封じるのは私の役割。それは紙使いの宿命と言えるものです。
 誰かに強制されたわけでも、誰かに約束したわけでもありません。
 
 でも、どうやってハルナを救えばいい?
 お爺様、私はどうするべきだったのでしょう?
 私は答えを誤ったのでしょうか?
 ダメです。全然考えがまとまらない。

 夕映は立ち止まって湖畔を眺める。寮に帰るに帰れないままここにたどり着いた。
 寮に帰ればハルナがいないという現実が待っている。
 それにのどかにどう説明し納得させたらいいのかわからない。彼女と顔を合わせて自分が普段通りに振舞えるのだろうか。
 心が不安に塗りつぶされる。心細い気持ちをペンダントを握って落ち着かせる。
 
「私は逃げてばかりですね……」

 湖面に移る自分の顔が揺らぐ。
 水面の向こうに図書館島がある。満月の夜に指定された決闘の場所だ。おそらく敵は図書館の利を生かした戦いを仕掛けてくるはずだ。
 私がハルナを助けるためにできること……
 鞄を見る。学校に行く癖でつい持ってきてしまったが、これが夕映の全戦力である。
 戦いは避けられない。身につけた力は誰かを守るための力。祖父が残してくれた唯一のもの。

「前を向くのです。綾瀬夕映。我思う、ユエに我あり。それが私。ハルナを絶対に助けます」

 言葉にして自分の意志を確かめる。それが自分が自分でいられる言葉だったからだ。
 後で古書店に寄る用事もできた。夕映は頭の中を切り替える。さっきまでの気弱な自分にはさようならだ。
 今日一日のはっきりとした目的が定まった。

「行ってみよう……」

 夕映は湖畔沿いの道を歩き出す。図書館島に向けて。


 
 その頃──閑静な竹林をエヴァンジェリンと茶々丸が歩く。
 つまらぬ仕事だ……麻帆良を覆う結界の見回り中である。
 自らを縛る忌々しい結界を守る任務をしていることは屈辱だが、この仕事をしたおかげで結界の弱点を探ることもできた。
 麻帆良に張り巡らせた電力網と結界は連動している。計画的に大停電を引き起こすことで一時的にだが封印されていた力を復活させることができる。
 満月の夜が勝負だ──

「マスター、なぜ彼女を挑発したのですか?」
「なぜも何も、私は悪者の役割を果たしただけだ。綾瀬は動かない。十分な成果だ」
「……」

 茶々丸の無言の視線は前を向いたままだが、従者の機微をエヴァンジェリンは感じ取る。
 綾瀬夕映との交渉はうまくいかなかった。思いの外強情な娘だ。

「不服そうだな」
「いえ、そのようなことは……」
「あの娘に嫌われるくらいどうということはない。私たちの計画は長い時間をかけて練ってきたものだ。今回を逃せばその機会は失われる。二度あるとは思わないことだ」
「そうですが……」

 なおも茶々丸が言い募る。彼女にしては珍しいことだ。

「ああ、もう! わかっているさ。綾瀬夕映を引き込むのであればもう少しやり方があったと言いたいのだろう? 茶々丸」

 立ち止まって腕組みをしてエヴァンジェリンは茶々丸の前に立つ。

「はい」
「お前バカ正直回路でも付けたのか?」
「いえ、葉加瀬との定期メンテナンスを行いましたが付けていません」
 
 茶々丸のAI回路は日々進歩し続けている。心と呼べる程のものが生まれつつあるのか? その成長を喜ぶべきか……

「味方に引き込むのは無理でも、中立の立場を約束させられたが、あえて背かせるように仕向けた。そこに疑問を持っているな?」
「はい、お考えがあるのでしょうか?」

 エヴァンジェリンのあのときの行動は威圧的なものだった。綾瀬夕映をこちらの思うように従わせる方法としては愚策である。
 マスターにそこまで反論するのは茶々丸の機能が抑制する。 

「お前は賢いが人のことはまだわからぬな。仮に綾瀬夕映と結んだとして、早乙女ハルナに憑かせた本食らいの始末を私が行う余裕が持てるかがネックになる。戦って分かったが、魔法使いの坊やの実力は本物だ。そんじょそこらのボンクラ魔法使いとは一線を画している。満月の夜に解除される結界は時間限定だ。坊やを相手にしつつ本喰らいの相手などしておれん。できたとしても私は坊やの血を吸うことを優先する」

 そこまで告げて、いったん息を注いで吐き出す。
 昨夜のネギとの戦闘で思った以上の実力を持つことが判明した。
 魔法の腕前はまだまだだが、魔力が足りない身で補助の魔法薬を使って戦うエヴァンジェリンをタジタジさせた。
 それが一度は約束したことを守れるかわからない要素となっている。
 本喰らいとなった早乙女に確実に対処できるかわからないことにエヴァンジェリンも迷うこととなった。

「綾瀬には早乙女を救ってもらわねばならない。あの娘にはそれだけの力がある。私が力を取り戻しても早乙女は救えないかもしれない。坊やがすんなり血を吸わせてくれれば別だがな。私の一番の敵は時間だ。茶々丸、私に失望したか?」

 主として認めたくない言葉であるが、茶々丸に対して偽ることはエヴァンジェリンの矜持にかかわる。

「いいえ。マスターは彼女のことを信頼なさっておいでなのですね」
「そんなものではない。泰造の秘蔵っ子にして紙使いの力を受け継いだ娘だ。本喰らいに対処するのに最も適材な者を当てるだけさ」
「おーい、エヴァ~」

 向こうからかかる声にエヴァは振り向く。高畑がこちらへやってくる。茶々丸が頭を下げて出迎える。

「む? タカミチか……何の用だ。仕事ならしているぞ」
「学園長がお呼びだ。一人で来いってさ」
「わかったよ……すぐに戻る。先に帰ってろ」
「はい、マスター……お気をつけて」

 二人が行く先を見送って茶々丸が告げていた。



 昼も過ぎた頃──夕映がいるのは古書店だ。店主に連絡して休日の店をわざわざ開けてもらった。
 図書館島での用事はもう済ませている。紙が足りなくなったので再補填しにここにきていた。先日買った分はすでに使い果たしている。
 全部を仕掛けとして使ってしまったが、それがうまく機能するかはまだわからない。ただできるだけのことをしたいという気持ちを止められなかった。

「おじさん、機械をお借りします」
「休みなのにお仕事かい、夕映ちゃん」
「はい……」

 店主は紙使いとしての事情を知るので詳しいことまで聞いては来ないが、祖父との間に築いた信頼関係で友誼を保っている。
 紙を均一に切る機械の使い方を教えてもらったが、紙を切り始めると店主が操作を代わってくれた。

「夕映ちゃんはゆっくりしていっていいよ。こいつは俺の仕事だからな。先生の紙は俺が全部作ってたんだ」
「お願いします」

 夕映は目元を抑える。念を使いすぎて目の下にクマができている。
 紙を扱うのに必要とされるのは強靭な精神力だ。紙は式神などで使う式譜と同じものだが基本は無地だ。
 術式となる紋様や呪文などは一切刻まない。術式は使い手の念そのものだ。
 まっさらな紙に念を込めることで自由自在に力を操ることができるが、術者の精神力に依存するので寝不足は天敵である。
 店主の言葉に甘えて夕映は古書の戸棚を見ながら一冊手に取って広げていた。紙を切る音を聞きながら夕映はページをめくる。

「毎度アリ!」

 全部の紙の束を前にそれを鞄に回収する。きちんと結束された紙を一つずつ入れていく。今回は紙は多すぎても困ることはない。
 ずっしり重くなった鞄を持って店を出る頃には夕暮れも近かった。

「綾瀬さん」

 呼び止められ振り向くとネギと明日菜がいた。

「ネギ先生、戻ったんですね」
「はい、綾瀬さん。ご心配おかけしました」

 ぺこりとネギが頭を下げる。その後ろからカモがぴょこんと顔を出す。

「私たち茶々丸さんの後をつけてるの」
「茶々丸さん?」

 見る限りではいないようですが……

「そこのお店に入って行きました。ペットのお店みたいですね」
「そうですか……」

 きっと、猫のエサを買っているのでしょう。猫たちは元気でしょうか?

「明日菜のねーさんがネギの兄貴とパクティオー(従者契約)したので次はエヴァンジェリンのやつにギャフンと言わせてやれます」 
「パクティオー?」
「あ、兄貴! 茶々丸のやつが出てきました。ちんたらしてると茶々丸を見失いやすぜ!」

 カモが指さす先に買い物をして店を出てくる茶々丸の姿があった。

「行かないと!」
「じゃあ、綾瀬さん。また後で」
「む……」

 二人が慌てて行くのを夕映は見送る。

 彼女は……今の状況では敵と呼ぶのでしょうか? 私の知っている彼女は優しい人です。ロボットだけど心があります。私は……

 一度は帰りかけた足を止めた。

 やっぱり……気になります。

 夕映は二人の後を追っていた。
 姿を見失う前に明日菜のツインテールを辛うじて見つける。茶々丸の行先はもうわかっている。
 いつかの空き地に入って行く。夕映は息を切らして辿り着いた。
 空き地でネギたちと茶々丸が対峙している。

 普段から体を鍛えていないときついですね……

 従者としての力を解放した明日菜が茶々丸に肉薄して接近戦に持ち込んでいる。
 ネギが魔法の詠唱を始めて間に合わないと判断し夕映は紙を取り出した。
 「疾走」と浮かんだ紙を両脚に張り付けて夕映は跳ぶように駆ける。

「──魔法の射手(サギタマギカ) セリエスルーキスっ!」

 詠唱を終えたネギから回避不能の自動追の魔法が茶々丸に向けて放たれる。

「自動追尾型魔法──回避不能……マスター、私が戻らないときは猫のエサを……っ!?」
「「八方盾!」」

 茶々丸の周囲に突如、八方の陣が浮かんだ。茶々丸の前に躍り込んだのは夕映だ。

「綾瀬さんっ! やっぱりダメぇ~~!!」
 
 ネギが魔法の射手の操作を反転させて自分の足元に着弾させて吹っ飛んでいた。
 その瞬間に茶々丸は飛んでいた。文字通りロケットのように足から噴射させての飛行である。あっという間に空の向こうに消えていく。

「何やってるのよ、ネギ! 怪我するわよ!」
「兄貴、自分に撃ってどーすんですかぁっ!」
「茶々丸さんも綾瀬さんもボクの大事な生徒ですから……」

 ネギが目を回しているがケガはない。魔法使いの魔法障壁がそらして防いだのだ。
 夕映の足元に紙が散って落ちる。ネギが矢をそらしたので防御の用は為さなかった。

「綾瀬さん、ケガはない?」

 明日菜が夕映の様子を確かめる。

「夕映のねーさんも何で茶々丸を庇うんすか~」
「私は何ともありません。ネギ先生は大丈夫ですか?」
「ボクは平気です。綾瀬さん、何であんな危険なことを? すいません……ボクがあんなことしたせいですよね。みんなボクの生徒なのに!」

 自分の頭をポカポカとネギが殴る。

「すいません。余計なことをしました……」
「いいのいいの、私だって茶々丸さんと戦いたいわけじゃないもの。大元はエヴァンジェリンのやつなんだから。本人にやり返してやりましょう」

 それから寮までみんなと一緒に帰りました。
 とっさに動いてしまいましたが……ネギ先生が人を平気で傷つける人ではないことはわかっていましたが、図らずも自分で体験してしまいました。
 魔法使いの魔法とは実に強力なものなのですね。あの攻撃を防ぎきれたかは自分でもわかりません……
 夕映は部屋の前で迷う。朝から逃げるようにして出てきてしまった。

「……ただいまです」
「お帰り、夕映」

 いつもののどかがそこにいる。
 そしてたまらなくなる。ここにハルナがいないことを思い出してしまう。

「入らないの?」
「入ります……」
「夕映」
「はい」
「ケーキ、食べようか?」
「食べます……」

 ろくに食べてないことを思い出す。とたんにお腹がグーグー言い出す。

「お腹減ったです……」
「すぐに出すね」

 のどかが冷蔵庫から出したケーキはモンブラン。夕映とのどかで一つずつ。ハルナの分もある。
 
「はい、ショコラサンダーだよぉ~」
「おお、これは……元気百倍出そうです」

 ショコラサンダー。麻帆良が生み出した奇跡のご当地ドリンク。毎月毎月、いかにしてこのようなものが出回っているのかは麻帆良七不思議の一つである。
 
「いただきます」
「いただきます……」

 とても甘い。とろけるその甘さを弾ける甘さで流し込む。 

「美味しいです……」
「夕映? ど、どうしたの、泣いてるの?」

 不意に胸に熱いものが込み上げて来る。目元の熱いものを夕映は拭う。

「泣いてません」
「泣いてるよ……」
「違います」

 後ろを向いて夕映は涙をティッシュで拭った。
 私はこの穏やかな時間と大切な人たちを守れるのでしょうか?
 友だちのハルナを取り戻せるのでしょうか?
 お爺さん力を貸してください──胸のペンダントに願いを込める。



 そして満月の日──学園長に呼び出されたのは世界樹が見える広場。夕映の前に現れたのは桜咲刹那と龍宮真名の二人だった。

「綾瀬、学園長から話は聞いている。生徒の命がかかっている。手を貸そう」
「私も微力だが助けになるよ。バイト代は弾んでくれると学園長から言質も貰ったしな」
「真名はとことん現金主義だな……」
「命を懸ける分だけの報酬は必要だ」
「……ありがとうございます」

 夕映は深々と頭を下げた。学園長は約束を守って二人の心強い援軍を送った。
 決戦場は図書館島です。準備は整いました。ハルナ……待っていてください。私は必ずあなたを取り戻します──
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